もう10年も前の話になりますがいいですか?

簡単に当時の俺の状況を説明します。
俺=一浪後に大学に入学し大学4年生の教育実習生。
  あるスポーツでインカレ入賞成績あり。
  東北地方のある県の母校で教育実習を行う。

記憶を手繰りながらになるので結構かかるかもしれません。

実際に教育実習に行ったことのある人なら分かると思いますが、教育実習生はモテます。
でも大学では「絶対に女子生徒には手を出さないように。君たちがモテるのは一時の気の迷いからなんだから」と教育されます。
俺も勿論、電話番号(当時は携帯を持ってなかったのでアパートの)なんかを何人かの女子生徒にしつこく聞かれていましたがきっぱり断っていました。

俺は、当時人気のお笑い芸人に似ているということで、
生徒の間ではその芸人の名前で呼ばれていた。
ここでは仮にヒロシとします。
俺も嫌な気もしなかったし、中学生相手に怒るのも・・・
というのもあって、好きなように呼ばせてました。

短い教育実習の期間の中でも生徒の悩み、とりわけ恋愛についてはよく相談を受けました。
ある日、キャラ的には梨花みたいな2年の女子が、昼休みに教育実習生室にやってきました。
「なぁなぁ、ヒロシ~!!やばい!今度、彼氏と3回目のデートなんだけど、手とか繋いでいいと思う?」
みたいな話をしてきました。
内心「可愛いことで悩んでるなぁ」と微笑みつつ「う~ん、難しい問題だなぁ」
と、先生ぶってみます。そして以下。
梨花「でしょ?でしょ?まだ絶対早いと思うんだよねぇ!あぁ、3年の泉美先輩はもう経験済ませてるのに、私は手も握れないよぉ~」
俺「は?泉美先輩ってバスケの?」
田舎な俺の地元では一緒に下校するだけで大騒ぎだったので、正直、かなり驚いた。
それにその泉美という娘はバスケ部のキャプテンでショートヘアでボーイッシュな感じ。
女の子っぽいというより男の子っぽくて、男女隔てなく人気のある娘だったから余計に驚いたのもある。
正直、俺の興味は梨花のデートよりも泉美の話にいってしまう。

梨花の相談に乗るふりをしながら、少しずつ3年の泉美のことを聞いてみる。
どうやら泉美の彼氏は1学年上。彼女が1年の時から付き合ってるとのこと。
その彼は地元でも有名な不良で、学校の先生のみならず、生徒の間でも優等生の泉美とその彼氏が付き合ってることを不思議がるようなカップルらしい。
初体験は2年生の夏。花火大会の夜に橋の下だったらしい。
恥ずかしい話、この時、かなり興奮したのを覚えている。
「絶対に言わないでね!この話知ってるの、バスケの後輩では私だけなんだから。」
梨花が強く言うので「聞いてない。聞いてない。今の話とか、俺、全然聞いてないから」
と、興味を持ってるの悟られないように、梨花を半ば強制的に教育実習室から追い出した。

なんだか、それから泉美のクラスの授業を担当する時は、彼女の顔を直視できなかった。
しかし、残念というか当然というか、実習期間で何も起こせるわけもなく、泉美もあくまでも俺の一生徒として、俺の教育実習は終わっていった。
しかし最終日の下校時間、教育実習生室から出ようとすると、数名の女子生徒が待っている。
「ヒロシ先生ぇ~!電話番号教えてください。」
当然、大学での評価などもある俺は「ゴメン。先生、大学のアパートに電話おいてないんだ」
と、適当にあしらう。
「じゃあさ、ヒトミちゃん(もう一人の教育実習生。英語科)の電話番号はぁ?」
「彼女は俺の同級生じゃないしなぁ(俺、一浪のため)。ま、今度教えていいか、聞いておくよ」
「え~!!だって明日からもう学校こないじゃん、ヒロシ先生もヒトミちゃんも。ヒトミちゃんかヒロシ先生のどちらか教えるまで、ここ通しませぇ~ん」
そうして俺は同性だからいいだろうと、もう一人の実習生の番号を教えて、逃げるように学校を去った。
ちなみに、その場に泉美はいなかった。

そして大学に戻って2~3日後、電話が鳴った。
梨花「へへ~!先生のスーパーアイドル、梨花でぇす!!」
俺「え?????なんで俺の番号知ってるの?」
梨花「ヒトミ先生に教えてもらった。どうしても勉強で分からないとこがあるから、ヒロシに聞きたいって」
「こらぁ~。嘘をつくな。ってか、電話するなって。ま、生徒から慕われるのはうれしいけど。とにかく、もう絶対に誰にも教えるなよ。また冬休みくらいには学校に顔出すから」
「え?だめなの?もう皆に教えちゃった」
「・・・・・・・まじ?」
それから毎日のように色々な生徒から電話が入るようになった。
勿論、男子生徒もかなりの数いたし、割合としては男子の方が多いくらいだった。

それでも、1ヶ月経ち、2ヶ月経ち、電話の件数も次第に減っていき、週に2~3回かかってこれば良いくらいになっていった。
そのうち最低1回は梨花からの電話だった。
そうするうちに、俺の大学の卒業論文が書き終わる頃には1月に2~3回の電話しか来なくなっていた。
そして3月。俺は自分の大学卒業と時期を同じくして、中学校を卒業する教育実習先に卒業を祝う電報を打った。
さすがにその卒業式の日は電話が鳴り止むことはなかったけど、それでもそれだけのものだった。
俺はといえば、地元の中小企業に就職が決まり、アパートを引き払う準備をしていた。
そして、地元に戻る1週間前。もうそろそろ電話も契約解除しないといけないと思っていた頃に、その電話が鳴った。
「もしもし、ヒロシ先生ですか?おひさしぶりです。○○泉美です」
なぜだか一瞬、心臓が止まる思いがした。